季節はずれの霊のお話
記事/さっちゃんはね♪(2003/11/16記)
あなたはいわゆる「幽霊」の存在を信じるだろうか。
幽霊という言い方をすると、怪談→うらめしや→呪い→怖いとなってしまう人も多いだろうが、概ねそれは相手が得体の知れない存在の場合である。では「得体の知れた相手」である場合はどうだろう。
今日は、およそ脳天気で鈍感な私の、唯一の霊体験をお話したい。
ある夜私は、自室のベッドの上で目を覚ました。「覚ました」とは言ったものの、自分の感覚としては夢か現か定かではない不確かさである。ただ一ついえるのは、いつも見る夢はとても現実離れしたシチュエーションにいる場合が多いのだが、その時は、「いつもの部屋」で「いつものようにベッドで寝ている」自分だったのだ。
ふと気がつくと、私の横に誰かがいた。
姿を見たわけではない。なんとなく気配を感じたのを「いる」と脳が自動翻訳したのだ。
「その人」は、覗き込むようにして私を見ていた。ちょうど膝立ちをしているような状態だ。そして右手が私の膝のあたりに、左手は鳩尾(みぞおち)のあたりに添えられている。ところがその鳩尾のあたりが苦しい。「その人」に手をどけてもらいたいのだが、言葉にすることができない。身をよじろうとしても、「その人」に押さえられた2点が全身の動きを封じるツボであるかのように、身動きひとつ取れないでいた。とにかく苦しいという意思表示をしたくて、「う~~~」とうめいてみた。発声している実感はあるが、それが自分の耳からは聞こえてこなかった。
やがて、私の意識は遠くなり、そのまま眠ってしまったようだった。
翌日、近所に住む従姉妹と話をしていて、前夜の不思議な体験を話すと「それが金縛りっていうもの」なのだと教えられた。それまでただの一度も金縛りを体験した事のない私に対して、彼女は体が疲れていたりするとよく金縛ってしまう体質の持ち主。「おお、アレが金縛りなのね」とヘンな感動に包まれつつも、その時期は特に疲れを感じていたわけでもなく、なぜ急にそんなことになったのだろうといぶかしんでいた。
そして、その翌日職場に1本の電話が入った。
私がとてもお世話になったKさんという女性が急逝されたというのだ。
ひと月ほど前に会ったばかりなのに…胃がんとの事だった。まだ30代、若いので進行が早かったのだという。
息を引き取る前、二日ほどはずっと意識不明だったそうだ。
「ああ、そうか。Kさんは最後にお別れに来てくれたんだ」
そう思った瞬間に金縛りの謎は氷解した。そして、純粋に嬉しかった。
ずっと私のことを気に掛けてくれていたKさん。「幸せな結婚をしてね」と言ってくれていた人だった。今私は結婚し、2人の子供にも恵まれた。そんな私のことを、彼女は今もどこかで見守っていてくれるのだろうか。